今回は2010年に映画化された、伊坂幸太郎さんの小説『ゴールデンスランバー』をご紹介します。
伊坂さんは本作で、山本周五郎賞、本屋大賞のダブル受賞を達成されています。
作者や出版社は?
伊坂さんは本屋大賞、山本周五郎賞、柴田錬三郎賞など数々の賞を受賞されている大人気作家です。
多くの作品がメディア化されています。
一冊で完結の作品が多いためか、映画が多いですね。
本書は書き下ろしの長編小説で、文庫本はなんと690ページにも及びます。
こんな人におすすめ!
読み応えのある小説を探している
伊坂幸太郎さんのファン
伊坂さんの長編小説といえば、この『ゴールデンスランバー』でしょう!
伊坂さんの作品の人気投票で上位に挙がることが多い、人気作品です。
読んだきっかけ
単行本が発売されてすぐの頃に読みました。
伊坂幸太郎さんのファンだから、です!
「伊坂さんの新作が発売された!買わなきゃ!」とわくわくしながら買いました♪
そして今回、10年以上間を空けて久々に文庫本を読みました。
かなりの長編でしたが、続きが気になってページをめくる手が止まらなくて…気がつけば読み終えていました。
詳しい内容は忘れていたので、純粋に楽しんで読むことができました!
最後のエピソードだけを覚えていました。
本の内容は?どんな話?
どんな話?
ごくごく普通に暮らしていたのに、突然身に覚えのない凶悪事件の犯人にされるって…怖すぎます!
伊坂さんの先見の目が素晴らしい
伊坂さんはタイムマシンに乗って未来を見てきたんでしょうか?
と疑問に思うぐらい、本書の中で現代の日本をズバズバ言い当てられています。
例えば、この『ゴールデンスランバー』では下記のことが起こっています。
・セキュリティポッド(周囲や携帯電話の音声、映像を確認できる)による監視社会
・一市民による首相暗殺事件
実際に、現代の日本では監視社会がすさまじいスピードで進んでいます。
伊坂さんには日本の未来が見えていて、そのうえで、監視社会化している日本に対して本書で警鐘されていたんだろうなと思います。
主人公の逃亡劇と見せかけて、人情ものでもある
主人公の青柳は、学生時代や元職場の知人、偶然知り合った病院の患者など、大勢の仲間に協力してもらい、逃亡を続けます。
青柳が逃亡を続けられたのは、仲間たちの協力のおかげなんです。
青柳の逃亡劇は、単独で逃げていては初期の段階で詰んでいたでしょう。
もちろん青柳の知恵と行動力があってこその逃亡劇でしたが、大勢の仲間の協力を得ることができて、それでやっとギリギリのところで逃げています。
青柳が学生時代に付き合っていた恋人、宅配ドライバー時代の同僚、お世話になった花火工場の社長、過去に助けたアイドル、偶然出会った犯罪者や病院の患者…。
それぞれが自分にできることで青柳の逃亡の手助けをします。
多くの登場人物が青柳の逃亡をノリノリで手伝っていて、途中で
あれ?これって人情ものだっけ…?
と思えるぐらい、熱い展開になっていきます。
この本から得られた気づき
冤罪の恐怖
冤罪は日常に潜んでいるのかもしれない
主人公の青柳はもちろん事件の真犯人ではないので、「冤罪」ということになります。
「冤罪」であるのにもかかわらず、青柳が犯人だという証拠が次々に出てきます。
つまり、犯人である証拠はいくらでも作ることができる、捏造が可能だということですね。
ここで、とある疑問が生まれます。
私たちがニュースで見ている、事件の犯人の音声や映像は、真実を映しているんでしょうか?
技術的には、偽の映像を作ることは可能です。
そして、ニュースで映し出された映像が真実なのか否なのか、私たちには判断する術はありません。
考え出すとキリがないですし、いちいち手間のかかる編集作業をしているとは思えません。
それでもやっぱり、私はこう思ってしまいます。
と。
『ゴールデンスランバー』の名言
人は恐怖で支配される
「まあねえ。でもさ、僕が思うには、あのキルオの事件もね、作り出されたものだよ」
ゴールデンスランバー
「作り出されたもの?」
「国民を怖がらせて、監視システムを導入しようとしたんだよ。そうに決まってる。怖がらせれば、たいがいのことは受け入れられるんだ、この国の人間は」
伊坂 幸太郎
青柳の逃亡を手助けした裏世界の人物・保土ヶ谷(ほどがや)と同じ病院に入院している、中学生の少年と青年がキルオの事件について会話しています。
※キルオの事件…本作の中で起きた連続殺人事件。
人は怖がらせることによって受け入れる。
本当にその通りですね。コロナ禍でこれでもかというほど実感しました。
コロナウイルスの恐怖により、PCR検査や隔離生活、そして完成したばかりのコロナワクチンを多くの日本国民は受け入れました。
恐怖で支配されると、人は「NO」と言えなくなります。
「仕方ない」「受け入れざるを得ない」等、消極的な姿勢であったとしても、受け入れる人が大半でしょう。
そして、選択肢が用意されていると、人は、選択肢が用意されたものしか存在していないように勘違いしてしまいます。
本当はそうじゃなくて、選択肢を自分で作り出すこともできるんですよね。
伊坂さんはここでもコロナ禍の未来を予知されていますね。
やっぱり、伊坂さんはすごいです。
人はイメージで動く
「イメージとはそういうものだろ。大した根拠もないのに、人はイメージを持つ。
ゴールデンスランバー
イメージで世の中は動く。
味の変わらないレストランが急に繁盛するのは、イメージが良くなったからだ。
もてはやされていた俳優に仕事がなくなるのは、イメージが悪くなったからだ。
首相を暗殺した男が、さほど憎まれないのは、共感できるイメージがあるからだ」
伊坂 幸太郎
青柳を捕まえた警察庁・佐々木が、青柳に自首を勧める場面でのセリフ。
これも、「本当にその通り!」と強く感じた箇所です。
確かに、自分のことを振り返っても「あの店のご飯はおいしそう」「あの人は優しそう」と、外から見えるイメージで考えたり動いたりしています。
それは言い換えれば…
良いイメージをもたせることができれば、良いことづくし!
ということでもありますね♪
一度良いイメージをもたれると、その後も好意的に見てもらえることが多いです。
イメージづけが大事なんだということがよくわかる、佐々木のセリフです。
感想
エンタメ小説として読んでいて楽しいのはもちろん、「これは社会派小説?」と思えるほど、社会の問題について追及されており、ものすごく読み応えがありました。
「この登場人物は関係ないだろう」と思われたキャラクターが後半になって活躍したり、本当に多くの伏線が張られており、見事に回収されています。
本当に素晴らしい作品ですので、多くの方にぜひ読んでいただきたい一冊です。
関連記事
他にも、伊坂幸太郎さんの『チルドレン』についてレビュー記事を書いています。